パンダの糞から・・・・・  (パンダ腸内細菌の話)

昨日の毎日新聞に、中国人研究者によるパンダが竹を食べて栄養素にできる証拠として腸内細菌が関与しているという記事が小さく掲載されていました。

皆さんもご存じのように、パンダは竹や笹を餌にしています。竹や笹を主食とするパンダは肉食獣であるライオンとほぼ同じ長さの消化管しか持っていません。したがって、竹などから栄養分を効率よく吸収できず、摂取したもののうち20%程度しかエネルギーに転換すすことができません。腸の長さから考えても、パンダはもともとは肉食であることがわかりますが、ツキノワグマなどと餌が競合したため、竹や笹を主食にしたとの説があります。



2011年11月22日付毎日新聞


いずれにしても、なぜ固い竹を消化できるのか疑問であり、多くの研究がなされています。
一つは大量の水を飲み栄養分を抽出しているとの説もあるようです。

2009年には、ジャイアントパンダのゲノムが解析された結果、竹などに含まれるセルロースを分解できる酵素に関連する遺伝子は見出されなかったことが明らかにされています。
そこで、腸内細菌の中に竹の繊維質を分解菌が存在することが予想され研究が繰り広げられてきたようです。

パンダの腸内細菌に関してあまり知識を持っていなかったので、少し調べてみると最新の文献として
Evidence of cellulose metabolism by the giant panda gut microbiome (ジャイアントパンダの腸内細菌によるセルロース代謝の証明 PNAS 2011 108(43):17714)という論文を見つけました。

今回の毎日新聞の記事は、この論文に基づいて書かれたものと思われます。
以下は論文内容ですが、パンダの腸内細菌叢の網羅的解析を行うと、他の草食動物にも見られるセルロースを分解できる細菌(クロストリジウム近縁種)が13種見出されたことに加え、他の動物には見られないパンダ特有の細菌が7種発見できたとのことです。さらにメタゲノム解析を行うと、クロストリジウムで見出されているセルロースなどの繊維質を分解できる酵素の遺伝子が見出されたことから、確実に繊維質を分解できる細菌がパンダの腸内に存在していることが証明されたということです。おそらく、パンダは特有のセルロース分解菌と共生することで竹や笹を主食とすることに成功し、特有の環境で生息することができるようになったものと想像できます。一方で、セルロース分解酵素遺伝子の存在比率はかなり少ないようで、繊維質の低い消化率を反映していることが推察されます。






ところで、少し古い話になりますが、パンダ腸内細菌に関する研究では、北里大学名誉教授である田口文章先生が、2009年にイグノーベル賞を受賞されています(関連記事)。この受賞理由は、パンダ糞便からごみ分解能力の高い菌を発見、家庭用生ごみで試したところごみの95%以上を水と二酸化炭素に分解することに成功したというものです。先の論文によれば、パンダ腸内細菌は炭水化物、アミノ酸、脂質などを代謝できる高い能力は持っているとのことからも、興味深い研究です。


最近ではアメリカのグループによって、パンダの腸内細菌が生成する酵素を利用して、バイオ燃料を安く効率的に生産できる可能性があることが示されています(関連英文記事)。


”たかが”パンダの糞の話ではなく、生物学的進化の視点や環境問題への貢献に至るまで、大きな可能性を秘めているという点で興味は尽きません。



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