ゲノム、ゲノム解析、またゲノム? いやメタゲノム解析から見えてくること

先日、3年生の分子生物学ゲノム解析の講義をしました。



ゲノム解析とは何かといえば、塩基配列を解析することから始まり、どこにどのような遺伝子があるかなど、ゲノムの遺伝情報を総合的に解析することです。この解析には、コンピューターの力を借りることなくして解析できるものではありません。またゲノムの大きさは、人であれば、おおよそ30億個の塩基対が並んでいます。10年前に比べれば塩基配列の解析速度は非常に速くなりましたが、30億個の塩基の配列を個人の研究室で解析できるものではありません。


分子生物学的手法を用いた腸内細菌叢の解析方法





それでは、微生物のゲノムの大きさはどうでしょう。


大腸菌のゲノムサイズ(塩基対数)は、460万程度で、乳酸菌では200万弱から300万強であるとされており、乳酸菌のゲノムサイズは、細菌のゲノムとしては比較的小さいほうです。これは何を意味するかというと、生きていくために必要な遺伝子群が大腸菌などに比べて少ない、要するに生きていくために必要なものを体内で作ることはできず、外から取り入れなければならないことを意味しています。典型的な例は乳酸菌はアミノ酸の合成系の遺伝子の多くを欠失していることです。それゆえ、乳酸菌の培地は大腸菌の培地などと比べ非常に贅沢な成分が含まれています。


ところで乳酸菌のゲノムサイズ程度になると、多少経費と時間はかかるけれど、ゲノムを1研究室で解析することは可能となってきます。といっても、解析を進めるとなると、それ相当の覚悟が必要です。



さらに“厄介”な時代に入ったと感じられるのは、メタゲノムなる解析を駆使することで、かなり有用な情報が得られるようになってきたということです。しかし、この解析は、個人の研究室では手に負えるものであはりません。



メタゲノム解析とは、ある生態系における微生物群が持つ遺伝子群を丸ごと解析することです。例えば、腸内という生態系に棲息している微生物は100兆個を超えると言われていますが、これらの微生物集合体において相互作用している遺伝子群すべてを解析することです。東大の服部先生(前北里大教授)のグループが世界のトップリーダー的存在です。



メタゲノム解析方法


服部先生のグループによれば、健康な日本人13人の腸内細菌叢ゲノム全体を調べた結果、それぞれ約2万〜6万個の遺伝子が同定できたとのことです。ヒトの遺伝子が、2万数千個と言われていますので、メタゲノム解析ではそれを上回る数の遺伝子を解析することになるというわけです。厄介と言ったのはここに理由があるわけです。



ただ、世界中で腸内菌叢のメタゲノム解析に注目が集まっています。

Nature誌の473巻,7346号(2011)には Enterotypes of the human gut microbiomeなるタイトルで、6カ国39人の腸内細菌のメタゲノム解析結果が示されています。


その結果、遺伝子群は、3つの大きなクラスターからなるグループに分類することができたということです。従来の腸内菌叢の解析では、多種類の培地を用意して、菌を培養し、菌種の組成を解析することが目的となっていたのですが、分子レベルの機能として多いものが必ずしも、腸内に多く存在する細菌由来ではないことを示し、メタゲノム解析の重要性が示されています。具体的には、12個の遺伝子が年齢と強く関連し、また、3個の機能モジュールがBody Mass Indexと強く関連していることが示されています。このことは、将来的には、メタゲノム解析によって診断に使えるマーカー遺伝子(指標となる遺伝子)が見出せる可能性を示していると言えます。


ちなみにこの論文は、25の部門や機関に所属する43名の連名からなる論文です。一般的には論文は、これほど多くの名前を連ねることはありません。3名程度の連名の論文もたくさんあります。


何を言いたいかと言えば、研究もネットワークの時代であるということです。


私たちは、乳酸菌の細胞認識性や感染防御能について関心を持って研究していますが、その中では、他大学の研究室や企業の方々ともネットワークを組んで研究しています。また、昨年度から、北里大学では、 「乳酸菌プロジェクト」なるものを立ち上げ、少しずつ研究を前に進めています。



乳酸菌を研究したい学生、高校生の皆さんは、結構、いや、かなり恵まれた環境にある私たちの研究室に一度来て相談してください。今のところゲノム解析を実施する予定はありませんが、足りないところはネットワークを組んで研究を進めていきたいと考えています。