腸内細菌と長寿

昨日(6月12日)のNHKスペシャルで「サーチュイン遺伝子」を取り上げていました。

サーチュイン遺伝子(sir2遺伝子)は2005年に米マサチューセッツ工科大のロナルド・ギャランテ教授によって発見されたもので、長寿遺伝子として注目されている遺伝子です。

長寿遺伝子に関しては、これまでも、何回かテレビで取り上げられてきましたが、NHKのCG技術がすばらしいこともあって、専門領域が異なる私にとっても、昨日の番組はとても魅力あるものでした。



ちょっと古い本ですが。



この長寿遺伝子は、普段は眠っているのですが、食事をカロリー制限することによってスイッチがONになり、ミトコンドリア内の活性酸素発生を抑制すること等によって老化の進行を抑えるとのことです。このことから、逆に肥満は寿命の観点からも余り好ましくないと考えられます。

(大雑把にいえば食事を腹八分目程度、実際は30%減のカロリー摂取にすること、極端に制限することではないのでご注意を)




ところで肥満と腸内細菌も無関係ではありません。

この5年間くらいで、肥満の形成に腸内細菌叢が関与しているという論文が相次いで発表されてきました。その根拠となる論文が最初に報告されたのは、2006年のNature誌で、FirmicutesとBacteroidetesと呼ばれる細菌種のバランスが肥満に関与しているというものでした(文献)。



肥満型の腸内細菌が・・・・。




最近になっても、Science誌に興味深い論文が出されています(文献)。マクロファージや樹状細胞に発現しており微生物認識に必須な機能分子であるToll様受容体のうち、Toll様受容体5遺伝子欠損マウスは肥満になるとともに腸内細菌叢が変化するというものです。


さらにこのマウスの腸内細菌叢を他のマウスに移すと肥満が現れるということから、肥満型の腸内細菌叢の存在が示唆されています。Toll様受容体は自然免疫に関わっているので、自然免疫能が影響を受けたことで細菌叢が変化し、肥満になったものと推察されています。これらの結果は、腸内細菌には肥満型とやせ型が存在することを示唆するものです。
                

個人的にもっと興味深いことは、Lactobacillus乳酸菌やビフィズス菌の中にも肥満抑制効果を示す菌株が存在することが明らかにされつつあることです。


Lactobacillus gasseri SBT2055株を用いた臨床試験では、肥満傾向のある男女に一日200gのSBT2055株を含むヨーグルトを摂取してもらったところ、12週間で内臓脂肪面積-4.6% 皮下脂肪-3.3%などの効果が確認されたとのことです(文献)。




メチニコフの理論は証明されるのでしょうか



このように腸内細菌と肥満に関しては密接に関連していると考えられます。


今日ここで述べた話題から考えると、100年前にメチニコフが唱えた発酵乳摂取が長寿につながるという、いわゆる不老長寿説が証明される日はそう遠くないかもしれません。


また後日、続きの話をします。